ちょっぴりイタリアオペラ〜有名なアリアの内容を知ろう ヴェルディ作曲《運命の力》

第4幕でレオノーラが歌うアリア「神よ、平和を与えたまえ」
Verdi LA FORZA DEL DESTINO atto quarto “Pace, pace, mio Dio” (Leonora)

アレクサンドル・シャルル・ルコック による
《運命の力》のポスター

ジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi, 1813-1891)作曲のオペラ《運命の力 LA FORZA DEL DESTINO》は、18世紀中頃のスペインが舞台。このアリアはセビリャのカラトラーヴァ侯爵(Bs)の娘レオノーラ(S)によって歌われる。

彼女は父親に結婚を反対されて、恋人でインカ帝国の血を引くアルヴァーロ(T)と駆け落ちしようとする。ところがそれが父に見つかり、アルヴァーロが差し出したピストルが暴発して不本意にも父を殺してしまう。そこからふたりの〈運命〉が狂いだす。父の復讐に燃えるレオノーラの兄カルロ(Br)が、逃げるふたりを執拗に追い続ける。

このアリア「神よ、平和を与えたまえ」が歌われるのは、オペラの終幕。男装して修道院の岩山の洞窟で修行僧として過ごし死を願うレオノーラが、逃げ惑う中ではぐれてしまったアルヴァーロを思いながら、自らの運命を嘆く。

このあと偶然彼女が籠る洞窟がある修道院で修道士になっていたアルヴァーロ(これも〈運命〉)と、彼を執念で見つけ出したカルロが決闘になり、カルロが瀕死の重傷を負う。助けを求める声に洞窟から出たレオノーラが、彼らと再会する。カルロが死の間際に妹を刺殺して父の復讐を果たし、アルヴァーロがこの過酷な〈運命〉を呪う。それをグアルディアーノ神父(Bs)が諫めるところで、この物語は終わる。筋書きに相当な強引さはあるものの、これが〈運命〉というものの力だ、というわけである。ちなみに初演版では、アルヴァーロも断崖から身を投げて死ぬことになっていた。(修道士が自殺するというのは赦されない行為であり、それが 検閲にかかって 結末が書き換えられた。)

ホセ・マルドーネス(グアルディアーノ神父)、 エンリコ・カルーソー(アルヴァーロ) 、 ローザ・ポンセル (レオノーラ)

「序曲」は、オーケストラのコンサートで単独で採り上げられることも多い。そこには、アルヴァーロのアリア「天使の胸に抱かれている君よ」、レオノーラの第2幕のアリア「慈悲深いマリア様!」、レオノーラとグアルディアーノ神父との壮大な二重唱など、このオペラの聴きどころであるメロディが網羅されている。

これだけ聴きごたえのある曲が数多くあるオペラなのに上演される機会が少ないのは、この物語の救いようのない暗さに加え、なにより主要なキャストに重さと強さを持つ立派な声の歌手をずらりと揃えなければならないことが理由にある。レオノーラにもこのアリアの他に大きなアリアがふたつあり、それらのアリアの方がこのアリアよりもずっと歌うのも表現するのも難しいが、有名なのは、最も短いこの最後のアリアである。実は、オクターヴの跳躍が繰り返されるこの最後のアリアだけを歌うことはさほど難しくなく、いろいろな声のソプラノがコンサートで歌う。だが、この役を本当に歌い通せるような声のソプラノは、世界中を見回しても極めて少ない。役に適さない軽い声のソプラノがこの役を歌い通そうとすれば、声を壊すこと間違いなし。ヴェルディの作品は「役が声を選ぶ」と言われるが、それは聴く側だけではなく、歌う側にとっても真実なのである。

ジュゼッペ・ヴェルディ

Pace, pace, pace, mio Dio, pace, mio Dio!

平穏を、神様!平穏をお与えください!

Cruda sventura m’astringe, ahimè, a languir;
come il dì primo da tant’anni dura
profondo il mio soffrir.

過酷な不幸が私を締め付け、ああ、私を弱らせる
長年続く深い苦しみが、あの日と同じように私を苦しめる

Pace, pace mio Dio!

平穏をお与えください、神様!

L’amai, gli è ver!
Ma di beltà e valore cotanto Iddio l’orno,
che l’amo ancor, né togliermi dal core l’immagin sua saprò.

彼を愛したこと、それは本当です!
でも彼の美しさや多いなる勇敢さは、神が彼に与えたもの
私は今も彼を愛しています、彼の面影を心から消すことなどできません

Fatalità! fatalità!

避けることのできない宿命なのです!宿命!

Un delitto dìsgiunti n’ha quaggiù!
Alvaro, io t’amo,
e su nel cielo è scritto!
non ti vedrò mai più!

ひとつの過ちが、この世で私たちを引き裂いたのです!
アルヴァーロ、あなたを愛しています。
そして天には、こう書かれているのです!
二度とあなたに会うことは叶わない、と!

Oh, Dio, Dio, fa ch’io muoia;
chè la calma può darmi morte sol.
Invan la pace qui sperò quest’alma
In preda a tanto, a tanto duol,
in mezzo a tanto, a tanto duol.
Invan la pace quest’alma, invan sperò!

ああ、神よ、神よ、どうか死なせてください
死だけが、私に安らぎを与えるのです
この魂に平穏を願うのは無駄なことなのです
大きな苦しみに苛まれた
苦しみの中に埋もれたこの魂に
平穏を願うのは、望むだけ無為なことなのです!
(洞穴の入り口に置かれたパンを見つけて)

Misero pane a prolungarmi vieni la sconsolata vita.

哀れなパンはこの何の慰めもない私の命をながらえるためにあるのね

Ma chi giunge?
Chi profanare ardisce il sacro loco?
Maledizione!

誰かがやってくる?
この神聖なる場所を冒涜しようとする恥知らずがいるのか?
呪われよ!

               (文・抄訳:河野典子)

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Filed under: オペラの世界 — イタリア文化会館東京 14:04
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